りゅうの さいごの ものがたり1

 むかあし、むかし。

 あるところに

 とてもりっぱな りゅうが いました。

 つんつん とがった つのと

 ほのおをふく おおきな くちと

 ぴかぴか ひかる うろこを もった

 おおきな おおきな

 りゅうが いました。

 りゅうは たかく けわしい やまのなかに すんでいて

 ふかい どうくつの なかで ねむり

 つめたい いずみで およいだり

 くものうえを つばさで とんだり

 たまに まよいこむ にんげんを たべてしまったりして

 ずっと ひとりで くらしていました。

 そんな あるひのことです。

 いつもの そらの さんぽから かえってくると

 りゅうは じぶんの すの すぐそばで

 ちいさなちいさな にんげんの おとこのこを みつけました。

 りゅうが つばさを ひろげて まいおりると

 おとこのこは がらすのような ひとみで

 じいっと りゅうを みつめました。

「わたしが こわくないのかい おちびちゃん」

 りゅうが おそろしげな こえで そういっても

 おとこのこは こたえませんでした。

「つので ついて くしざしに してしまおうか」

 おとこのこは こたえませんでした。

「それとも ほのおを ふいて もやしてしまおうか」

 おとこのこは こたえませんでした。

「いやいや そのちいさなからだを まるのみにしてしまおうか」

 りゅうが おおきな くちを ひらいて そういうと

「そうしてください」

 おとこのこは はじめて いいました。

「なんだって?」

 りゅうは びっくりしました。

 いままであった にんげんが いうことと いったら

「たすけて」

「たべないで」

「しにたくない」

 そんなことばかり。

 なのに おとこのこは たべてくれと いうのです。

「ぼくは おやに すてられたのです」

 おとこのこは いいました。

「ぼくには おやも おかねも たべものも ありません。

 どうせ しんでしまうなら だれかの たべものに なりたいのです」

 おとこのこの ことばに りゅうは「ふうむ」と うなりました。

「でもねえ おちびちゃん。

 たべてくれと いったって、

 おまえさんは そんなに

 ちっぽけ じゃあないか」

 おとこのこの からだは

 せもひくく がりがりで

 ちっとも おいしくなさそうでした。

「だめですか」

 おとこのこは かなしそうに いいました。

「わたしは こうみえて たべものには うるさいんだ。

 おまえみたいな まずそうなものは たべられないよ」

 りゅうは わざと いじわるに そういいました。

 しかし それは うそでした。

 りゅうは この かわった おとこのこと

 もうすこし おはなしが してみたくなったのです。

「じゃあ こうしよう」

 こまってしまった おとこのこに

 りゅうは いいました。

「わたしは おまえに たべものを あげよう。

 そうして おおきくなったら

 おまえは わたしの たべものになるんだ」

「わかりました」

 おとこのこは うれしそうに いいました。

さいごのりゅうのものがたり2

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